記者のペンが止まった……
「取材対応」をとおして見える岡崎慎司の並外れた力
新刊「未到 奇跡の一年」を上梓した岡崎慎司。「取材者」が見た、そのすごさの秘密に迫る.
打ち合わせ中、メモを書く手が止まる
今回の打ち合わせは、岡崎慎司の新刊(『未到 奇跡の一年』)に関するものだった。
プレミアリーグ一年目の挑戦を中心に綴るはずだった本書は、前述の「レスター快進撃」によって、その秘密にも迫ってみよう、ということになっていた。
テーマや方向性、内容をつめていくとき、我々「話を聞く側」の人間は、著者(取材者対象者)の言葉はもちろん、仕草や表情、雰囲気などを見て、メモ帳に書き留める。先ほどの「気負いなし、リラックス」というのもそのひとつ。
これは、著者の話している内容が、本当に伝えたいことなのか、聞かれたから答えただけのものなのか、といった微妙なニュアンスを知りたいとき、役に立つことがあるからだ。
もちろんこの打ち合わせでも、同じようにメモを取りながら話を聞いたのだが、話をしていくうちに仕草などに関する記述をすることがなくなった。
というのも、(お恥ずかしい話だが)時間が経つに連れ、岡崎慎司の「記憶力」と「考える量」に圧倒され、仕草などを見る余裕がなくなったからだ。
まず「記憶力」。
試合におけるワンシーン、ワンシーンについて岡崎慎司は驚くくらいよく覚えている。試合映像を流しながら、打ち合わせをしていると、
「(映像で流れるシーンを見ながら)このちょっと後ですね、ニアで動きが被ることがあったんで、ファーサイドに流れてみたんですけど……」
「このとき、トラップをしてちょっと遅れてシュートまで持ち込めなかったんで、後半最初のシーンではダイレクトでシュートを打ったんです」
「似たようなシーンが前半にもあったんですよ、前半のアルブライトン(レスターのサイドハーフ)からパスが出たシーンですかね」
と、とにかくプレーに対する記憶が鮮明なのだ。
あまりによく覚えていてこんなこともあった。
「この次のプレーで、すごいいい感じでできたシーンがあるんで……あれっ? 映ってない!」
その瞬間、カメラはピッチではなく懸命に檄を飛ばす、レスター指揮官、ラニエリの姿を映し出していた。「めっちゃいいプレーだったのに!」と悔しがる本人の前で、ついつい取材陣は笑ってしまう。
そして「考える量」。
構成上のキーワードをもらおうと、一つひとつの試合を簡単に振り返ってもらったのだが、それぞれの試合でピッチに臨むテーマが違うことに驚かされた(こうしたテーマを覚えていることにも「記憶力」のすごさが知れる)。ときには、ひとつ前の試合と真逆のテーマを掲げることもある。それを尋ねると、
「いや、毎試合自分のプレーを分析して、頭を整理したら今まで考えていたことと全然逆やな、って思うことがあるんです。特に今シーズンは180度考えが変わった瞬間があった。
たまに困るのは、取材してもらって、“僕はこれからこうしていこうと決意した”って記事にしてもらったのに、次の取材で、まったく逆の考えに到ってることがある(笑)。
でも、つねに自分がどうやったらうまくなるか、点を取れるかって考えていると、そうなってしまうんですよね」